水子地蔵は真昼にだけ微笑んだのではない。

「可哀想に…こんな時代に産まれて…。」

その昔に、水子地蔵の前に、おくるみに包まれた男の赤ん坊を抱いた少女が立っていた。

「この子だけは助けて欲しい。」

祈る少女に水子地蔵が微笑んだ。

「その子は私が預かりましょう…。」

水子地蔵はその子を預かり、その成長をとめて、平和な時代に世に送り出した。

両親のみが我が子を見分けた。


「約束を守って下さった…。」

小さく呟き、母が二度目の死を迎えたとしても、そんな有り得ないような事を知る由もない。

人が持たない能力を持っている、それだけが真実を語るとしても。

この世は長い長い時の流れを経て現在がある。

誰も気づきはしない。

真昼やケンのように、前に後に時を移動して生きている者が紛れ込んでいても、気づかない程時間はめまぐるしく流れ、思いもよらない出会いをしているとしても。

真昼の先祖の墓と同じ寺の敷地の奥の古い墓に、【玲】と刻まれた墓があったとしても。