だからもう、今までみたいに簡単には泣けない。
泣いちゃいけないと、自分にそう言い聞かせるの。
ピアノが弾けなくて孤独を感じた日々も全て、強さに変えてみせるから。
「…あたし、母の気持ちが分からないわけではありません」
ぽつりと呟くような小声に、学園長は表情を引き締めて耳を傾ける。
あたしも再度背筋を伸ばして、言葉を一つ一つ丁寧に紡いだ。
「事故という過去があったからこそ、母は余計に音楽の世界を目指すことを反対しています。
その気持ちは、何度説明されても分かるんです。
辛い気持ちを経験しているからこそ、あたしに音楽の世界に入って欲しくないっていう気持ちは…」
「…うん。 私も詩織さんの気持ちは分かるよ。 親として、子供に辛いことや悲しいことは味わってほしくないだろうね」
「…だけどあたし、それでもピアニストになりたいと思っています。
ピアニストというものが、生半可な気持ちや多少の苦労だけでなれるものではないことも十分承知しています。
それでもなりたいって思えるぐらい、ピアノが好きなんです。
苦労なら、全て結果にしてみせる。 辛さなら、ピアノが好きなだけで幸せに変えられると思うんです」



