「彼女と連絡を取らなくなって、思い出したのは君……佐奈さんのことだよ」
「あたし……ですか?」
まさかここで自分の話題が出てくるとは思っていなかったから、目を見開かずにはいられなかった。
学園長は縦に一度だけゆっくりと首を振って、遠い昔を見るように話した。
「詩織さんについてくる君は、いつも希望に溢れる瞳をしていた。 ピアノが好きなのだと、一目で分かったよ。
…だから詩織さんがピアニストを引退して、きっと君は傷ついていると思った。
君は……彼女を尊敬しているみたいだったから」
「…っ……」
あまりに的確な言葉は、ストレートに心に入り込んでくる。
あたしは人にそう思われるほどピアノが好きだったのだと、苦しいほどに思い知らされる。
「…確かに、学園長の言う通りです。 ピアニストである母のことを尊敬していました。 ……それは今でも変わりません」
膝の上に置いて揃えていた手に力がこもる。
そう。
たとえ今、ピアノが弾けないとしても。
ピアニストであったお母さんを尊敬してる。
笹川詩織は、見失うことのない目標だから――。



