「誰もが傷ついた彼女を支えていこうとした。
…でも、彼女はプライドが高かったから、完全ではない手でピアノを弾こうとはしなかった。
…いや、芯が強いという方がいいのかもしれない。 彼女は自分に張られたレッテルに見合わないピアノは演奏しなかったんだ」
「………」
正直思い出してみても、あたしはお母さんがピアニストを引退したときの想いをはっきりと聞いた覚えはない。
事故以前のようにピアノを弾けなくなってしまったことは聞いた。
でもそれは、お母さんの意志ではなくてただの事実で。
たとえ“天才”と呼ばれたときの演奏でなくても、やり直そうと思えばやり直せたはず。
でもそれをしなかったのは、学園長が言っていることが正しいからだと思う。
お母さん、そういうところは私生活でも同じだから。
「彼女が引退してから、私は連絡することもなくなった。
私が関わってしまうことで、彼女の傷を広めてしまう気がしていたからね…。
彼女もきっと、もう音楽界の人とは関わりたくなかったのだろう。
彼女から連絡してくることも、ぱったりなくなったよ」
そう言った学園長はどこか寂しさを帯びていて、本当は学園長、どんな形でもいいからお母さんに音楽に関わっていて欲しかったんじゃないかと思う。
自分の教え子が音楽を嫌ってしまったら……きっと悲しいはずだから。
だけどそれだって、叶わない願いかもしれない。
お母さんはあたしをこの世界から遠ざけようとしているぐらいなのだから。



