幼い頃のことだった。
名前の知らない音楽家のおじさんが、テレビの中でそう言っていたのを覚えている。
その時は特に心を打たれる言葉には感じなかったけど、やけに今でも印象に残っている。
幼いあたしの心に住み着いた、この言葉。
それが今、ふと頭の中に浮かんできたのだ。
今のあたしには、この言葉の意味がなんとなくだけどわかる気がする。
だって、今のあたしがそうだから……。
今のあたしの心の中には、悲しみや、辛さで溢れかえっている。
その感情は神経を伝いながら、指先へと届く。
その指先が奏でるメロディーは、さっきまでとは少しだけ違う。
同じようにゆっくりとした落ち着いたメロディー。
だけどその中には、悲しみや辛さという感情が入り混ざっている。
今のあたしが奏でるのは、
どこか切なく、
どこか淡い、
まるで恋のようなバラード。
そんなメロディーを、あたしは奏で続けていた。
……♪~♪♪~♪~♪~♪~♪♪~♪――
短いあたしの演奏が、あっという間に終わった。
パチパチパチパチ…
演奏が終わると、自然に拍手が起こった。



