「ピアニストになりたいって思った。
だけど実際に目指そうと思う気持ちは、それほどには強くなかったの」
「………」
「本当のところ、こんな気持ちを“夢”と言って言いのかもよく分からないの。
だけど、笹川さんに憧れたのは確かよ。
あの時私は、確かに笹川さんみたいなピアニストを夢見てた」
「………」
正直言うと、先生の話を聞いてもまだよく分かっていなかった。
そんな中で、先生は続ける。
「簡単に言えば、私の決意が甘かったのね。
ピアニストになりたいって思ったくせに、何にも行動に移せなかったの」
ドキッ…
『行動に移せなかった』
先生のその言葉が、あたしの奥底で眠っていた感情に突き刺さる。
……それはあたしも、何度も同じように感じた自分の弱い部分だった。
「当時も音楽の名門校と言えば、この東條学園だった。
だけど私は進路としてこの学校を選ばずに、別の学校を選んだの」
「………」
「…私は、困難な道から逃げたのよ」
先生の気持ちは、痛い程によく分かる。
そして何よりも、悲しくなった。



