「……ねえ、佐奈ちゃん。
どうしてたくさんのピアニストがいる中で、先生は笹川さんに惹かれたと思う?」
先生にそう問われて色々な理由を思い浮かべてみるけれど、どんなものが先生の心を大きく動かしたのかは分からない。
結局言えるような答えは見つからず、あたしは数回首を横に振ることしか出来なかった。
「…笹川さんの、雰囲気に惹かれたのよ」
気が付くとあたし達は廊下の真ん中で立ち止まっていて。
足音さえしなくなった廊下には、先生の声がよく響いていた。
「笹川さんは、どんなピアニストとも違った雰囲気を持っていたの。
他の人には絶対ない、不思議で独特な雰囲気を」
「………」
先生が言う、お母さんが醸し出す雰囲気。
それはあたしがずっと前から見てきて憧れていた、
ピアニストの“笹川詩織”
…の雰囲気そのままだった。



