「確かにテレビで見掛けることはあったわ。
だけど当時の私は部活で忙しかったし、じっくりテレビを見る機会が少なかったの。
だから私は、あまり笹川さんのことを知らなかった」
「…そうですか」
「だけどある日。
学校の行事の一環として、ピアノのコンサートに行く機会があったの」
先生はそう言うや否や、持っていたショルダーバッグから黒い革製のスケジュール帳を取り出す。
そしてそのスケジュール帳のとあるページを開くと、そこから折り畳まれている紙を取り出した。
「これが、その時のコンサートのチケットよ」
先生は流れるような動作で、それをあたしの前に突き出した。
だけどいきなり目の前に差し出されても、手に取ってもいいのかと躊躇ってしまう。
あたしがそうこうしていると、先生は「どうぞ」の言葉の代わりに頷いた。
それを見届けたあたしは、差し出された紙を労るようにそっと受け取った。
おずおずとした動作で折り畳まれている紙を開く。
広げた紙は長方形の形をしていて、先生の言う通り、確かにコンサートのチケットだった。



