先生の口からは、まだ何も聞いていない。
だけど、その切ない笑顔の意味は何となく分かる。
だって、先生は今。
さっき言った夢のことを“夢だった”と、過去形で言った。
それに何より、先生はその夢を叶えられていないのだから。
「先生が、佐奈ちゃんと同じ15歳のときだったかな。
その時初めて、笹川詩織さんのピアノに惹かれたの」
無邪気に笑う先生は、当時の高揚感が蘇っているみたいだった。
ピアノが大好きな気持ちはあたしも同じだから、その感じはとても共感出来る。
「私が笹川さんの演奏を聞くまでにも、笹川さんは十分有名だった。
だけど実際に演奏を聞くまでは、あまりよく知らなかったの」
「テレビとかでも見掛けなかったんですか?」
お母さんが事故にあって引退するまでは、結構ニュース等でも取り上げられていたはずだ。
それほどお母さんのピアノは、全国に認められる演奏だったから。



