職員室に鍵を返しに行ってから部活をするために昇降口に向かうとすれば、余計な時間をくってしまう。
伸一君が鍵を返しに行くとすれば、思ったより部活に行くのが遅くなってしまうはずだ。
あたしはそのことを気にかけて、伸一君にあのようなことを言ったのだった。
けれど伸一君は、ああ言ったあたしの心配をしてくれているらしい。
引きつってしまった顔を必死に戻す努力をしながら、伸一君に向かって言った。
「あたし、職員室に用事があるの。 だから、気にしないで早く部活に行っておいでよ」
伸一君は少し悩んだみたいだけど、すぐに口を開いた。
「…そうか? じゃあ、頼もうっかな。 あっ、これ鍵な」
伸一君はそう言いながら、いつの間にか手に持っていた2組の鍵をあたしの前に差し出す。
片手を広げて待つと、伸一君は静かにあたしの手のひらに鍵を置いた。
あたしの知らないキャラクターのキーホルダーがついている鍵だった。
「じゃあ俺、部活行くな!」
伸一君はスクールバックを肩にかけながら言った。
あたしもその姿を視界の端で見ながら、同じようにスクールバックを肩にかける。
手には受け取った鍵と、提出しなければいけないプリントを握っていた。



