僕らの背骨


その駅からホテルまでは十数分掛かるが、電車での移動時間と比べれば莉奈には苦にならなかった。

会話という会話が嘘の羅列で成立し、積み重ねた虚像がこの移動時間の間に莉奈の中でとてつもなく大きな物になってしまっていた。

「コンビニあそこにありますよ。」
莉奈は今朝行ったコンビニを指さしながら言った。

「ていうか莉奈ちゃんもう敬語は良くない?年上なんだし…。」
美紀はずっと気にしていた様子で言った。

「そうだね…、莉奈も思ってたんだけど、タイミングが分かんなくて…。(笑)」
莉奈は苦笑いを見せながらそう言った。

コンビニに入ると莉奈の脳裏に今朝の場景が浮かんだ。

レジの前に立つ長身の男…。

そして微かな匂いが過去の幸福な絵図を呼び起こした…。

やはりあれは誠二だったに違いない…。

莉奈はそう核心していた。

この遠い東京という地で、こんな偶然がある訳がない。

あのシルエットと、あの匂い…。

誠二はきっと自分を見守っていて、あの"使命"を果たす事よりも忘却出来ずにいた擁護の感覚を優先してしまったんだ…。

誠二…。
まだ、莉奈を好き…?

莉奈はレジの前を見つめながら、自分に都合の良いそんな解釈をしていた。

「…それ癖?」
莉奈の背後から美紀が言った。

「えっ?」
莉奈は振り返り言った。

「その急にボーッとするの。電車でもそうだったけど…。」
美紀は少し莉奈の精神を心配した様子で言った。

「…そうかも。でも初めて言われた…。意外に結構やってんのかな?」
莉奈は素直に気にしながら言った。

「…かもよ、癖って自分じゃ気付かないもん。私も体掻く癖があってさ、人に言われて気付いた。」
美紀は分かりやすく腕を掻きながら言った。

「気をつけよ…。」
もちろん莉奈に美紀が指摘したような癖はないが、この数日…、もしくは誠二と別れてからは、少なからず鬱気味とも言えた。

莉奈は自身でそれに気付く事は出来なかったが、自分の精神が不安定である事は考えるまでもなく認識していた。

しかし、誠二を拒絶したのは飽くまで自分であって、この孤独の原因を全て誠二に押し付ける事は出来ない…。