僕らの背骨


「………。」
運転手は話しの先を聞く為に黙った。

「彼のお母さんはお父さんの愛人で、奥さんじゃないんです…。奥さんがお父さんを殺したっていうのは彼の推測で…、実際は事故で処理されたそうです…。つまり…、奥さんは今も生きていて、娘さんと普通に生活しています。彼はそれをその娘さんに話すつもりらしいです。『あなたの母親は人殺し』だって…。」
莉奈は外を見たままそう言った。

「……えっと、彼氏のお母さんはどうなったの?」
運転手は話しの要点が分からず、率直な疑問を口にした。

「自殺です。首を吊って…。多分、誠二のお父さんの死が辛くて…。」
莉奈は言った。

「そう…、それで君はどうするつもりなの?」
運転手は聞いた。

「その娘さんに会いに行きます。名前は田中真理。…"清林学院"に通っているそうです。」
莉奈は言った。

「…もしかして、今から?」
運転手は少し困った顔で言った。

「はい、今から会いに行きます。」
莉奈は敢えて自分が何をするつもりかを省略して話した。

それによって莉奈は得体の知れない影に包まれ、運転手からの執拗な問い掛けを遮断出来ると考えたのだ。

「………。」
運転手は言葉に詰まり、落ち着かない様子で視線を動かしていた。


流れる都会の夕景色はまた莉奈の胸を締め付け、ホテルから見た絶景とは違うすぐ近くの光りを莉奈に照らしていた。


「…着いたよ。」
運転手は言った。

莉奈は車内から辺りを見回し、右側にあった校舎を確認すると、運転手に料金を支払い、タクシーを降りた。

降りる間際運転手が莉奈に何かを言いかけたが、莉奈ははっきりとそれを無視した。

抱えている問題を他人に伝えたという事だけなら、昨夜、レストランで美伽に話した時とあまり変わりはないのだが、やはりそれは同性同士の安心感だったのか…、莉奈は結局この運転手に心を開く事はなかった。


門の前まで歩を進め、莉奈は下校途中の女生徒に話し掛けた。

「あの、すいません。三年の田中真理さんって知ってますか?」
莉奈は特に物怖じせずに聞いた。

「えっ?真理?知ってるけど…、誰?」
その女生徒は莉奈に不審な視線を向けながら言った。