「あぁ〜、なるほど…。ドアに引っ掛けとけば掃除してくれるんや…。」
莉奈はその札を手に持ちながら一応部屋を見回した。
シーツは乱雑にめくれていて、机にゴミの入った袋、そしてバッグは部屋の中央でその中身をぶちまけていて、おまけにバスルームも使いかけの歯ブラシや適当に放られたバスタオルで全てが散らかし放題だった。
「…なんか恥ずかしい。」
莉奈はボソッと呟いた。
しかし、そもそも汚れてなきゃ掃除の意味なんてないし…、と思い直し、莉奈は散らかし放題のままその部屋を無視し、ルームキーと札を手に取り部屋を出た。
そして外側のドアノブに"掃除して下さい"を表向きにした札を掛け、安心した様子でそれを眺めるとエレベーターに向かった。
「莉奈なんかホテルに馴れて来た。」
莉奈は自慢げな表情でそんな独り言を言い、エレベーターを降りるとフロントに鍵を預けた。
「ちょっと出掛けて来ます。」
莉奈はそれも慣れた様子で言うと、従業員に軽く笑顔を見せながらホテルを後にした。
すると莉奈は急に立ち止まり、タクシーを呼んでもらうべきだったかな…、とホテルの方を振り返った。
しかし目の前には大通りがあり、通り過ぎる多数の車の中に何台もタクシーがいる事を確認出来ると、莉奈は自分で呼び止めようと決めた。
自分一人でタクシーを呼び止める事が初めてだっただけに、少し遠慮がちに莉奈は手を挙げた。
すると10秒と経たずに一台のタクシーが莉奈の前に止まり、莉奈は都会の利便性の良さに改めて気付かせられた。
「"清林学院"までお願いします。」
莉奈は運転手に言った。
「はい。」
運転手は明るい表情を見せながら言った。
「どれくらい掛かります?」
莉奈は聞いた。
「そうだね…、この時間だと40分…、以上は掛かるかな…。」
少し申し訳なさそうに運転手は言った。
「あっ、分かりました。」
莉奈はすっかり部屋で寝込んでしまっていた事を思い出した。
明日には帰らなければいけない…。
そんな現実が莉奈の頭を過ぎったが、今気にするべきなのはそんな事ではなく、自分がどう真理話すか…、もしくは秋子にどう会うか…、という事だった。
