すると莉奈は初めて体にシーツを被せ、冷え切ったその体を暖めた。
ふと莉奈の脳裏にとある光景が蘇る。
{10月3日 PM 5:32}
−調査報告書−
"被対象者" 氏名 田中真理
誠二は探偵を雇い、その対象の個人情報を調べさせていた。
誠二はそれを隠す事なく莉奈に読ませた。
「…誰?」
莉奈は誠二に聞いた。
−父の娘だよ。−
誠二はメモにそう書いた。
「…お父さんの娘?じゃあ…、誠二の妹?」
莉奈は恐れながらも聞いた。
−腹違いのね。つまり、彼女は田中秋子の娘だ。−
誠二はメモに書いた。
「……。」
莉奈は誠二の意図が分からず、ただ黙っていた。
−僕は"彼女"に全てを伝えるつもりだ。−
誠二は書いた。
「…伝えるって、…何を?」
莉奈は聞いた。
−君の母親は"人殺し"だって。−
{11月1日 PM 4:56}
莉奈はベッドの上で頭を振った。
全てはそこからすれ違いが始まり、誠二の望む理解を莉奈が拒絶した瞬間だった。
もしあの時に戻れたら…、
莉奈は何度もそれを考えた。
しかし何度自分をあの瞬間に戻しても、結局答えは同じなのだ。
誠二のしようとしている事を、莉奈が心から理解など出来るはずはなかった。
根拠のない誠二の言う"真実"は紛れも無く自己満足であって、日々平穏に過ごす同年代の少女を意味もなく傷付ける事は、いくらなんでも身勝手過ぎる。
莉奈はあの時、そんな正論で誠二を説得しようした。
しかし、誠二にはそれがただの拒絶としてしか伝わらず、誠二なりの正義感…、もしくはモラルが著しく莉奈のそれとはズレ、次第に二人が別れを迎えるきっかけとなったのだ。
もう弁解など出来ない…。
あれが莉奈の本心で、仮に言葉を変えたとしても、また同じように誠二には拒絶となる。
ただ…、
自らの"行動"で全てを変えるとしたら…。
莉奈は考えた。
もし何らかの形で誠二の言う真実を証明するには…、方法は一つしかない。
"田中秋子"…。
彼女が全てを話すしかない。
あれが誠二の妄想なら、きっとつじつまの合う真実を知っていて、それを上手く娘に話せるはずだ。
