僕らの背骨


ゆっくり唇を離すと、誠二の白く綺麗な肌が莉奈の胸をきつく締め付けた。

「綺麗…。」
莉奈は呟く。

誠二はそれを唇の動きで理解したらしく、微かに笑みを見せながら莉奈を優しく見つめた。

冷めないほてりをそのままに、莉奈はまた誠二の首筋に顔を埋めた…。


{11月1日 AM 5:21}

そんな光景が頭を過ぎると、莉奈はハッとして入口を見た。

「……誠二?」

出て行った長身の男はすでに姿が見えなくなっていた…。

莉奈は入口に視線を向けながら、持っていた傘や商品の入った袋を地面に落とすと、無意識に走り出した。

ぶつかる程の勢いで自動ドアから出て、豪雨の中行くあてもなく莉奈は走った。

あの男が本当に誠二だったのか…。

それは莉奈にも分からなかった。

ただ、莉奈は走らずにはいられなかった。

求愛の先にある唯一の存在が自分を傷付け、抱擁し、…また擁護する。

全ての不安がつい目前まで露呈していて、今もそれは何一つ変わっていない。

もしあれが誠二だったのなら、莉奈の心で揺れ動く全ての不安は消し去り、擁護されるべきは自分なのだと誠二にぶつけられる。

誰よりも自分が辛い…。

それが事実じゃなくてもいい。

ただ自分は、そのくらい辛くて、痛くて、涙が止まらない…。

どうかそれを誠二に分かって欲しい。

他の誰でもない誠二に…。
分かって欲しい。


びしょ濡れの莉奈は激しい息遣いのまま辺りを見回すと、諦めたようにその場にへたり込んだ。

涙は出なかった…。

どうしようもなく悲しくて、寂しいのに…、莉奈は涙が出なかった…。


雨に打たれながら、莉奈はコンビニへ戻り、店内にそのままにしていた袋や傘の事を店員に謝罪すると、ゆっくりと店を出て、もう必要のない傘をさしながらホテルに戻って行った。


うっかり自分の部屋番号を忘れていた莉奈だったが、名前だけで部屋鍵を渡して貰えた。

部屋に戻ると莉奈はベッドに倒れ込み、食欲の無くなった体調をそのままにして、目を開いたままずっと窓の外を眺めていた…。


予報通りその朝は豪雨になり、予期する事も出来なかった莉奈の喪失感もまた、暗い景色に包まれていた…。