莉奈は財布と鍵を手に持ち、テレビや電気は点けたままで部屋を出て行った。
外出の際に鍵をフロントに預けるという一般常識くらいはさすがに莉奈は知っていて、エレベーターに乗りフロントの前まで来ると、昨夜の担当者とは違う従業員に鍵を渡した。
「あの…、ちょっとコンビニに行って来ます…。」
どこかオドオドした表情で莉奈は言った。
「いってらっしゃいませ。」
丁寧な対応で従業員は莉奈にお辞儀をしながら言った。
莉奈もつられてお辞儀をして、ホテルを後にした。
外に出ると、涼しい風が莉奈の髪をなびかせた。
つい目を閉じてその心地良い風を顔に触れさせていると、真上からポツッと雫が落ちて来て、莉奈の気分を慌てさせた。
「…やばい。」
莉奈は自分が傘を持っていない事や、そもそもコンビニの場所を把握していない事などがいっぺんに頭を過ぎり、無意識に早歩きになった。
幸運にもコンビニは莉奈が昨夜通って来た道とは反対側のすぐ近くの場所にあり、視線に入った見慣れたコンビニのチェーン店を莉奈は救いの手とも感じた。
ほんの数秒で雨は本降りとなり、視線に入ったコンビニまでの距離で予報通りの豪雨に変貌した。
「帰りどうしよう…。傘売っとうかな…。」
莉奈は店先で服についた雨の雫を払いながら、そんな事を呟いた。
店内に入るとまだ早朝でありながら、やはり都心という立地のせいか、莉奈の予想以上に客の数が多く、作業服姿の中年や、スーツ姿の若い男性、お洒落なストールを羽織った若く"見える"女性などがいた。
莉奈は入口付近に安いビニール傘を見つけると、安心した様子で通り過ぎ、取り敢えずは雑誌を立ち読みしだした。
少女マンガ誌を手に取ると、莉奈はしばらくその雑誌を読み耽っていた。
そんな普段通りの行動をとる事によって、莉奈は多少なりとも気分を落ち着かせようとした。
莉奈本人にもその行動の意図は分からなかったが、買わずして立ち読みをする事に何らかの安心感があった。
誠二の叔父から貰った旅費は充分過ぎる額で、今もまだ大半は残っている。
しかし、買う程その雑誌を読みたい訳ではない…。
