「………、ううん…、友達と約束があるから…。」
真理はなるべく秋子との距離を保とうとそう返答した。
「そう…、あんまり遅くならないようにね?」
秋子はいつも通りの小言を言って娘との時間を諦めた。
真理はキッチンから出てリビングのソファに座ると、呆然としながら考え込んだ。
手紙はただのイタズラなのだろうか…。
母が嘘をつく理由もない…。
でも…、この平穏な会話が全て嘘で塗り固められた物だったのなら…。
真理は簡単には自身の母を信じる事が出来なかった。
「真理…、これ誕生日のお小遣。」
秋子はそう言うと、一万円札を数枚真理に手渡した。
「…うん。」
毎年誕生日に貰えるこの特別な小遣いは、真理が年を重ねる毎に金額を増し、今年は中学生のお小遣には多過ぎる額の5万円が手渡された。
真理の家は元々金銭的余裕のある経済状況が継続しており、母を見る限りではその家計は不変の存在とも言えた。
秋子は未亡人でありながら特に職には就いておらず、家事と育児にのみ生活の軸を置いていた。
しかし、亡き夫が残した遺産は今後親子二人を支えるには充分過ぎる額だった。
子供ながらにそんな金銭面での余裕は真理にも理解出来、その順応があったからこそ秋子が手渡した"5万円"というお小遣の額は、真理にとっては特に意味を成さなかった。
「…最近美紀ちゃん来ないわね?ケンカでもしたの?」
秋子は何気なくそんな雑談を始めた。
「…うん、……ていうかさ…、パパって…、どんな人だった?」
真理は秋子に視線は向けずに、独り言のようにそう呟いた。
「…パパ?…そうね、すごく真面目で…。優しくて、頼りがいがあって…、それにハンサムだった。」
秋子は窓の外を眺めながらしみじみと言った。
「…完璧じゃん。…真面目で優しくてハンサムなんて、絶対"盛った"でしょ?」
真理は苦笑いを見せながら言った。
「これが本当なの!(笑)…ママには勿体ないくらい…、完璧な人だった…。」
秋子はソファに深く座ると、何やら回想するように遠い目をした。
「…何一つ欠点がなかったの?」
真理は真顔で聞いた。
「……一つだけ、…あったかな。」
秋子は少し哀しい表情をしながら、説明を躊躇した。
