真理はバッグを乱雑に近くへ寄せると、少し躊躇いながらもチャックを開け、中に手を入れた。

目当ての物はすぐに感触として伝わり、常に平静でいたい真理の感情を揺さ振った。

真理はしっかりその物を掴むと、ゆっくりバッグから手を出した。

一通の白い封筒は真理の二本の指で支えられながら、真理の顔の前で揺れていた。

何気なく学校へ行き、帰宅し、
ポストを見た…、

それだけなのに…、
そこには自分宛ての手紙が入っていて…、そして…、その手紙の差出人は…、

"父親"だった。


真理はその手紙を取り敢えずバッグにしまうと、部屋を出てリビングに向かった。

階段を降りる間、目まぐるしく過去に聞いた母からの言葉が頭を過ぎった。

あなたのパパは死んだ…。

ママがずっとそばにいるから…。

もし全てが嘘だったのなら、真理はもう母を信じる事など出来そうになかった。

「…ママ。」
真理はリビングのソファに座っていた秋子に声を掛けた。

「ん?なに?ケーキ食べる?」
秋子は楽観的な表情を見せながら言った。

「違う…、ケーキじゃなくて…、私のパパって…、死んだんだよね?」
莉奈は自分でも驚く程率直に聞いた。

「どうしたの急に…?…うん、真理が生まれる前に火事でね…。」
秋子は途端に真顔になり、真理にそう言った。

「ふ〜ん…。」
真理は後に続く言葉が思い付かず、相槌だけで無言になってしまった。

「もう"パパが欲しい"とかって言う年頃でもないでしょ?どうしたの急に?」
秋子は困惑した様子で真理を見つめていた。

「…ううん、…ただ聞いてみただけ。ていうかママ!この前私のコートまた勝手に着たでしょ!?」
真理はごまかすようにそんなクレームを母に言った。

「えっ?バレた!?(笑)良いじゃない別に減るもんじゃないんだから!」
秋子はおどけた表情でそう言うと、逃げるようにキッチンに入って行った。

「借りるなら先に言ってよ!私だってその日着るかもしれないんだから!」
真理は若干本意気でそんな文句を言った。

「…はいはい。…今日ご飯どうする?たまには外に食べに行こっか?誕生日だし。」
秋子はそんなお詫びも含めた提案で真理をたしなめようと言った。