そんな"特別意識"は思春期にこそ最も現れやすい感情だが、大人になっても理想に近付けないその"選ばれし者達"は、破壊にのみその証明が得られると思っている。

つまり、彼らはやけくそで人を殺し、愚かな人生の最後に目立った行為を…、という概念でその行動に走った訳ではないのだろう。

自分は特別なのだという"証明"…、それが欲しかったのだ…。


誠二が身を投げた事で、真理や莉奈を深く傷付ける事は明白だが、誠二は誠二なりに"理解"を証明したかったのだ。

"選ばれし者達"とは違って、自分は劣悪なのだと理解した証明を…。



…誠二の黒いコートが落下の速度で靡き、ただ痛みにも感じるその冷たい風が身を刺していた。

瞳に映るビルの外壁と広がる空…、それらは無音のまま次第に意識の外へ漏れだし、木々や地面の衝撃すら、淡泊に流れていた。

突如全身に痛みが走ると、誠二は声を上げた。

それは痛みによるうめき声なのか…、それとも、投げ出した我が身からその罪悪が流れ出て、自由による開放感から雄叫びを上げたのか。

頭を上下左右に動かしながら、誠二はその朦朧とした意識の中で、涙を流した…。


生きたい…。


その意識は紛れも無く誠二の背骨に深く刻まれ、この瞬間に生まれた誠二の新たな"光り"を証明していた。

ふと誠二はビルとビルの隙間から、一人の少女が近付いてくるのを見た…。

その姿は次第にはっきりと容姿を現にして、潤んだ瞳を誠二に向けていた。

「誠二…、誠二…。」

その声は聞こえなくても、誠二にはその真実の"擁護"を生まれて初めて感じた…。

触れた指先が僅かにその体温を温め、決して忘れる事のない温もりを誠二に記憶させた。

「…う、…あ…。」

声を出したい…。
誠二は心の底からそう願った。

名前を呼びたいんだ…。

彼女の名前を…。

一人だけの妹…、
一人だけの家族…。

真理…、真理…。

誠二はただ、その名前を心の中で繰り返していた…。