{11月2日 AM 3:08}

ホテルの廊下で二人は向かい合い、一人は悔し涙を見せ、一人は悲哀に満ちた瞳でその相手を見据えていた。

「絶対放さんけん…。」
莉奈は誠二の腕を強く握ると、その意思を表情でも伝えた。

「………。」
誠二はゆっくりその手に触れると、軽く首を横に振った。

「今莉奈を無視してどこかに行くなら…、誠二は二度と莉奈には会えないからね!…それでも良い…?」
莉奈は言った直後に誠二に抱きついた。

決して誠二は言葉で拒絶をする事が出来ないが、莉奈がここまで言っても誠二が首を横に降ってしまうのなら…、そう考えると、莉奈はその誠二からの返答を直視する事が出来なかった。

すると誠二は莉奈の肩を両手で優しく掴み、そのままお互いの体を離した。

誠二から真っ直ぐに見つめられた莉奈はふいに視線を下に外した。

こんな別れ方…、
絶対嫌…。

莉奈は現状の継続以外に自分が今何をすべきかを見失っていた。

誠二の救いの為という擁護は、今はもう莉奈に持ち得る事が出来ず、ただ莉奈は自分の孤独だけを恐れていた。

もう一人ぼっちにはなりたくない…。

莉奈が今その感覚に苛まれるのは当然だった。

一度は"自己犠牲"で誠二への擁護を決意した莉奈だったが、膨れ上がった孤独の先に突如誠二との密接な関わりを体現し、その継続への欲求から安堵を失えなくなってしまったのだ。

失意の中の擁護は何より幸福感を得られる事柄と言えて、莉奈にもまさにその誠二からの擁護が自己犠牲の崩壊となった。

失ったはずの存在が今こうして目の前にいて、また自分の前から消えようとしている…。

莉奈でなくても、今誠二に執着してしまうのは人間なら当然だった。

「もう一人は嫌やけん…。莉奈はこれまでだってたくさん我慢して、誠二の為に頑張ったのに…。莉奈と一緒にいられないなら最初から期待させないでよ!!」
莉奈は誠二の胸に自分の拳を力一杯ぶつけた。

ずっと下を向いていた莉奈の発言を誠二にはもちろん理解出来なかったが、その怒りの原因が自分にあるという事は分かっていた…。

誠二は自身の胸に押し当てられた莉奈の拳を優しく握ると、そのままお互いの手をゆっくり下に下ろした。