「…真理時間大丈夫?」
既に一般的な中学生の門限には遅い時刻だった為、紗耶は心配そうに言った。
「うん、全然大丈夫だよ。明日学校休みだし。」
真理は特に意味もなく言った。
「じゃあさ…、今日うち泊まってったら?」
紗耶は真理の答えに不安があったのか、視線を合わせずに聞いた。
「えっ?うん…、どうしようかな…。」
真理は紗耶との急激な接近に戸惑っていた。
今日の昼まで、紗耶とは学校の休み時間でしか話さない仲だったのに、自分の寂しさから逃れられたいが為に、身勝手にも自分よりもさらに孤独であろう紗耶を利用した…。
そんな真理の冷酷な部分には気付かずに、紗耶は真理との仲を今日という日に固く結びたいとアピールしているのだ。
真理自身、紗耶との接近を現時点で煩わしいとは感じていない。
しかし、今後の学校生活やそれ以外の時間で、紗耶を"親友"としての扱いをしなければならないとしたら…。それを考えると真理はこの瞬間の紗耶からのアピールを素直には受け入れられずにいた。
「アタシの部屋全然広いし、余裕で二人寝れるよ。」
紗耶は自分の勝ち気なキャラを投げ捨て、なりふり構わず真理に懇願していた。
「う〜ん…、そうだね。紗耶のお母さんが良いって言うなら…。」
真理はふとその時、数時間前に出会った"男"の事を思い出した。
カラオケ店のロビーで"メモ"を見せてきたあの男…。長身で美しい顔立ち、黒いタイトなコートを羽織りながら、袖から見えるその手と細い指で、真理へのメッセージを書いていた。
その耳の聞こえない男は、その一瞬で真理を困惑させ、また"魅了"したのだった。
真理の脳裏に写された男の姿は今もまだ鮮明で、真理が閉じた瞳にその姿を映し出す度に、恐怖と恋心の間で胸は揺れ動くのだった。
真理は内心、この奇妙な一日を少しでも長く体感していたかった。
自宅に帰ってしまえば、この"特別な日"が日々の変わらぬ"平穏"に色褪せ、いずれ消えてしまう…。
そんな恐怖が真理の胸を指し、紗耶からの懇願を受け入れる理由となった。
「ほんとに!!!じゃあ今日朝まで一緒に"THE OC"見よう!!真理見た事ある?アタシ超ハマってんだけど!!」
紗耶は真理が今まで見た事のないような笑顔で言った。
