僕らの背骨


数分が経過した…。

誠二は変わらずメモを手にしたままで、屈辱的な心情もまた、変わらず胸の内でうごめいていた。

分かっていた…。

全ては自身の利己的な傲慢が作り出した妄想で、解決や救い、擁護の先にある解放も…、誠二の自己満足に過ぎなかった。

誰よりも愛した女性から何度となくそう言われても、微塵も揺らぐ事のなかった決意であったはずなのに…。

誠二は得体の知れぬ少年に分かりきった正論をぶつけられ、まさにその"認知"を迫られた。

自分は間違っている…。
それはただの自己満足だと…。

莉奈には揺らぐ事なく否定を持ち得たが、あの見知らぬ少年に言われた時、誠二は何故か納得せざるを得ない状況を感じていた。

これは擁護の先に存在する"甘え"という精神部分が関係しているのだろう。

求愛を確たる存在として認知している莉奈には、もちろんどんな意見の相違があってもどちらかが擁護となる均衡がある。

これは友人関係でも存在する事だが、今後の関係性を持続する為に必ず誰かが擁護になり、誰かが自己を提示する。

その均衡を重視していなかった誠二は当然常に提示側となり、人一倍その"甘え"を強く持っていた。

しかし無関係な人間からの否定に慣れていない誠二は、感覚でその"甘え"には有効性がない事に気付き、同時にその否定の正当性をも気付かせたのだ。

もちろん田辺にその意図はなかったが、ただ言葉を選ばない主観的な田辺の意見が、たまたま誠二の甘えを引き出せなくする要因になったのだ。


誠二にはもはや怒りなどなかった…。

傲慢なる自身の決意は脆くも崩れ去り、今ある空虚な想いは永遠なる継続を余儀なくされた。

俺は何故ここに…。

誠二は激しい呼吸の乱れを感じた。

そしてふと壁に手をつくと、誠二は胸を強く押さえ、無意味な自身の"背景"を憎んだ。

これを全て一人で抱えろと…。

誠二はその恐怖に震えた。

真理という擁護の先があったからこそ、全てに堪えられたのに…。

これからどうしたら…。


誠二は呆然としながら夜空を見上げた。


暗く濁った東京の夜空はわずかな数の星しか姿を見せず、孤独なる誠二の心を癒す事は出来なかった…。