多少威圧的な文章の書き方だったが、誠二は文字通りこの少年に少なからず敵対を感じていた。
「田中真理の兄貴だろ?腹違いの…。そんで…、あいつに伝えるんだろ、"お前の母親は人殺しだって…。」
少年は言った。
誠二は顔を歪ませながらはっきりとその怒りを表にした。
一体何なんだ…。
誠二は今までに味わった事のないような"劣等感"を肌身に感じた。
危うく殴り掛かりそうな自分を押さえながら、誠二はメモを書いた。
−誰だお前は?−
少年は真顔のまま誠二を直視した。
「…俺の名前は"田辺正樹"。あんたのやろうとしてる事って、…恐喝じゃない?別に田中がどうなろうと俺には関係ないけどさ…、なんかムカつくんだよね…、あんたみたいに自己中な奴見てると…。」
田辺は言った。
誠二は怒りを通り越して放心状態になった。
少年が言っている事はまさしく真実で、主観的に見たその誠二の人格も決して誠二にも否定出来ない事実だったのだ。
しかしこの少年を殴った所で何になる…。
拳に痛みが走り、胸のムカつきが増すだけだ…。
誠二は行き場のない感情の矛先をどうにか暴力以外で片付けようと思考を巡らせた。
「あんたさ…、馬鹿だよ。あんたがそれを田中に言ったって、何にも解決しないじゃん。」
少年は誠二の心情には無関心で、そんな冷たい物の言い方で誠二を罵倒した。
何故こいつが全てを知っているかはもはや問題じゃない…。
ただ…、どうにかこいつを殺さずに済む方法はないのか…。
誠二はもう平静を保つ事すら難しかった。
「…母親に言わせたら?」
少年は言った。
誠二にその意味は分からなかった。
「多分…、田中の母親が唯一その権利を持ってんじゃないの?…あんたにはその権利はないよ。あんたが言っても、田中を傷つけるだけだよ…。」
少年は真っ直ぐ誠二を見つめながらそう言った。
誠二は何を言ったら良いのか分からなかったが、何か一つでも正当なる自分の真意を伝えようと、またメモを書き始めた。
しかし少年は誠二がそれを書き終わる前に背中を向け、無言で歩き出した。
誠二にしたらその放置が何よりの屈辱となり、今後消える事のない"敗北"という記憶を誠二の脳裏に刻む事となった…。
