「それで今日は遅かったわけだね」


花の蜜を吸いながら、ハジメが言った。


山頂の茂みの中のいつもの場所。


私は、今日の出来事を我ながら興奮気味に、ハジメに話して聞かせたところだった。



「弟、逮捕されないと良いな……。心配だょ」


「ナンバープレート見られてたらまずいね」


「何よりも、弟のバイク、目立つから、通報されたらすぐに持ち主がばれそうだよ」


「ああ、あの黄色と黒のしましまの派手なバイク?」


「いつ見たの!?」


「ミチコのことはいつでも見てるよ。最近よく弟さんのバイクで来るだろ」


「うん」



ハジメは、フフフと笑って、私に花を差し出した。


「ミチコも吸う?」


「私は吸わない主義なの」


「おいしいよ」


「そんなミツバチみたいなことしたくない」


「どっちがミツバチなんだか」


「え?」


「あのバイク、ミツバチにそっくりじゃん」


「あはは。確かにそうかも」




ハジメと話していると癒される。


見とれるほどきれいな顔に、やさしい声。


夢中になって話しこんでいると、あっという間に時間が過ぎてしまう。




「私、そろそろ帰らないと」


「もうそんな時間?」


「日が暮れる前に帰らないと、このへん夜道が恐いから……」


「遅くなっても、俺が下まで送っていくから大丈夫だよ」


「う……うん」


「っていうかさ、ミチコ」


「何?」




「今夜は帰さないって俺が言ったらどうする?」





「え?」




「今夜は帰らせない」



ハジメはそう言って、私を後ろから抱き締めた。