「畜生!畜生!」

平田は頭を押さえ、悔しそうに言った。



「私、こうなるんじゃないかと思っていました」

神妙な顔で目黒さんが言う。


「目黒さんだって、オード卵の料理、喜んで食べてたじゃないですか!」


「ふふーん」


「そんなことより、オード卵、逃げちゃったよ」


「困りますね。いてて……かなり強く殴られましたよ」


「根が狂暴なんですね」

目黒さんが言う。


「私、探してくる!」


私は靴を履くと外に飛び出した。


しかし、オード卵の姿はもう無かった。


オード卵のほうが私よりも足が速いだろうし、逃げた方向もわからないのなら、絶望的だ。


すぐに家に戻るのも気まずいので、なんとなくあたりを見回したりして時間をつぶしてみることにした。


気付くと8月も、もう終わりだ。

虫の声が聞こえる。


アパートの植え込みをふと見ると、誰かが捨てて行ったのだろう空き缶とお弁当の空容器が落ちている。


このへんに住む住人は、ちょっとマナーが悪い。


道路にゴミを捨てるなんて、どうかしている。


そういえば……

以前、ゴミ拾いのボランティアをしている吉川ヨシオに会ったことがあった。


吉川ヨシオは、今、どうしているのだろう。


なぜ姿を消したのか……


さらわれたのだとしたら、誰がやったのだろうか……


どっちにしろ、きっと今頃、暗い所で、一人、苦しんでいるのだろう。


大切な友達だった。


個人的に、そんなに親しかったわけでもないし、こんなことになる前は、気にも留めていなかったが、大事な仲間の一人だったのは確かだ。


月が出ている。

空気が湿っている。


一人でいるのが心細くなるような、夏の終わりの夜だ。


いつも、個性的な古着を着ていた吉川ヨシオ……


面白くて、女の子に人気があって……


真帆は、私の何十倍も悲しんでいるのだろう。