ウルフ中川の家は、こけし工場を越えて、いくつか曲がり角を曲がったところにあった。

山嵐ノゾミの家から近い。

「そういえば、事件って、大学のまわりでばかり起きてますね」

平田が言う。


「確かにそうですね」

目黒さんが言う。


「でも、私、病院の近くでも襲われたよ」


「それだけ例外ですねえ……さあ、着きましたよ」

平田が言う。


ウルフの家は、アパートの2階だった。


平田は得意げに階段に向かって歩いて行った。


その瞬間。


「ぼひゃあ!」

という弱々しい悲鳴とともに、平田は崩れ落ちた。


落し穴だ。


「きちんと埋めておいてもらわないと困りますよう」

平田は土を払いながら言った。




階段を登り、ドアフォンを押すと、ウルフ中川が出てきた。

真っ白なTシャツに、黒いジャージのズボンを履いている。

当たり前だが、部屋着のウルフ中川を見るのは初めてだった。

かなりげっそりした表情をしている。


「うわ。来たのか……」

ウルフ中川は、少し迷惑そうにそう言った。


「まあまあまあ……。ポカリとか冷し中華とか買ってきましたよ」


平田はにこにこ笑って、コンビニの袋を差し出した。


「おっ。助かるな」


「具合悪くて、買い出しにも行けてないんじゃないかと思いましてね」


「察しの通りだ。まあ、入れ」


ウルフの部屋は、なんとなくお洒落っぽい黒いテーブルがあって、小さなベッドがあるような、男の子っぽい部屋だった。


家電にこだわりは無いらしい。

白い小さな冷蔵庫のうえには安物の電子レンジが乗っている。


目黒さんは、失礼にあたるくらいにキョロキョロと部屋の中を見回している。