「なんか……」

目黒さんは言った。


「なんか、女っぽい文章じゃなくないですか」


「確かに……。前読んだ時は感じなかったけど……」

「わざと女性を装っているっていうことはないですかねえ」

平田が言う。


「沼袋部長、どう思いますか?」

目黒さんは、そう言ってパソコンの画面を観た。


沼袋部長は、インカムを外して、犬と戯れている。


毛の長い、大きな犬だ。


「沼袋部長!」


インカムを外しているので、どんなに叫んでも、こちらの声は届かない。


困ったものだ。


「気を取り直して……お金で買えない大切なものって何でしょう」


目黒さんが言う。


「愛ですね」

平田が答えた。


「確かに、愛はお金では買えないというのは有名な話よね」


「友情!努力!希望!思い出!青春!」


調子に乗って、平田が言う。


「まあ、世の中のほとんどが、お金でなんとかなりますけどね」

目黒さんはそう言って、平田をチラ見した。

いやらしい。



「お金だけ払って罪を償ったと思っていると手紙にはあるけど、やっぱりこれは、リスの落し穴事件に対する和解金のことですよねえ」

平田が言う。


「そうじゃない?」


「とすると、この手紙の送り主は、リスの落し穴事件で、穴に落ちて怪我したんですね」


「そういうことになるね。そして、その怪我によって、お金では買えない大切なものを失った……」


「怪我したからって彼氏にふられたりはしないですよね」

目黒さんが言った。


「あ!」


「ミチコさん、どうしたんですか?」


怪我で台無しになるような、お金では買えない大切なもの……


思いついてしまった。