「何するんだ?」

弟が言う。


「消毒じゃ」

婆は、いつのまにか背中に背負っていたリュックから薬品のようなものと包帯を取り出した。


料理の時程は手慣れていないが、婆は、素早く器用に、ひじきさんの手当てをした。


ししゃもさんと婆のやりとりを聞いていると、婆はこの界隈のホームレスたちのリーダー的存在らしい。



なぜか、弟は、そんな婆をきらきらした瞳で見つめている。



「もう、散々だぁ」

独り言のように、ししゃもさんは呟いた。


「親友のひじきさんがこんなんになっちまうし、あひるのペスはさらわれるしなぁ」




あひるのペス……





聞き覚えのある名前だ。


ハジメの母が盗んで、ハジメが飼育しているあひるだ。



このかわいそうなホームレスに、いつかあひるを返してやりたいと、私は密かに思った。