「えっ。アネキ襲われたの!?」

弟はそう言うと、口から、剥いたライチを二つ吐き出した。


「やだっ、橘、汚い!」


「悪ぃ」


ダイニングテーブルには、料理の残骸と空の皿が並んでいる。

今夜のメニューは、ロールキャベツとコールスローサラダ、ホイコウロウとキャベツのお浸しだった。


めずらしく仕事が休みの弟が全部作ってくれた。



「で、びっくりしちゃうのが、助けてくれたのが、自転車少年だったの」


「自転車少年!?なんたよそれ」


「橘が、ゴミ屋敷の前で、高そうな自転車をバイクで潰したでしょ。その自転車の持ち主」


「あいつか」


「まあ、私が自転車壊しの犯人の姉だとは気付かなかったみたいだけどね」


「頼むよ。ばれて弁償なんてことになったら今月の給料が半分パアだぜ」


「ずいぶん稼ぐようになったじゃない」


私がそう言うと、弟は、にやけて鼻を掻いた。


「橘、結局、進路どうするの?」


「とりあえず今は金を貯めるよ。俺なりに考えがあるからね」


「どんな?」


「そんなことより、明日、ランチに招待されてんだよ」

話をはぐらかされた。

橘のことだから、何も考えていなさそうだ。


「ランチって?」


「赤頭巾ババア。いや、ベレー婆かな」


「え!?なんで!?」


「いや。仕事帰りに、ゴミ屋敷の前を通ったら、誘われたんだ」


「ずいぶん仲良いわねー」


「そんなんじゃねーよ」


「で、ランチに行くの?」


「まーな。アネキも一緒にどうぞって言われてんだ」


「え」


「どーせ暇なんだろ」


「そうだけど」


「じゃ、決まりだ」



ゴミ屋敷にランチ。


できれば避けたいイベントだ。


普段の私だったら絶対に断っていただろう。

最近、嫌な事件ばかりで、滅入っているので、少しでも気分転換になるようなことをしたかった。