山嵐ノゾミは、まだ足にギプスをはめている。


沼袋部長が、壁に立て掛けてあった松葉杖を山嵐ノゾミに手渡した。


「部長、どこ行くんですか」

私が言うと、沼袋部長は、言った。


「デート」


「松葉杖で!?」


「あたい、こう見えても」タフなんだよ」


「山嵐君の家でおうちデートってやつだ」


二人は手を取り合って、笑顔で部室を出ていった。



「橋本ミミの立場は?」

私が言うと、目黒さんは無表情で言った。


「腕を怪我してふさぎ込んでいるみたいですよ。今日は病院に行くらしいし」


目黒さんの仕業だ。


沼袋部長も、橋本ミミとデート出来なくなったからと言って、山嵐ノゾミに乗り換えるなんて、素早いにも程がある。

男性不振になりそうだ。


山嵐ノゾミも、ミミと沼袋部長の関係を知っていながらデートするなんて、大胆だ。


「私たちも帰ろうか」

私は目黒さんに言った。


「私、まだお弁当が……」


目黒さんのお弁当はまだ半分以上残っていた。


弁当箱が、人並みはずれて大きすぎるのだ。


「ミチコ先輩、食べおわるまで待ってくださいよ」


「うん……」




面倒なことに巻き込まれてしまった。



目黒さんは、その後、一時間近く無言で弁当を食べ続けた。