「彼女、吹奏楽サークルにも入っててね。コンクール前だったんだよ」


それは初耳だ。


「突き指して楽器が持てなくなって、コンクールに出られなくなったみたいなんだよね。かわいそうだよね」


「それは聞いてなかったな。ミミ君は僕に気を遣って言わなかったのだろう」


沼袋部長が言う。


「あとさ、こんなこと言って良いのかわからないけど、彼女、沼袋君のこと……。いや、やっぱやめとこ」


意味ありげだ。


「まあ、それは良いとして、あとはウルフだね」


「はい。そうです」

目黒さんが言う。


「かなり男前だけど、見かけによらず、頭も良いね。良い男だよ」


「そうですね」


「恋愛に関しては、奥手かな。もてるんだけど、理想が高いし、ある意味頑固だから、彼女がいることはほとんど無いし、いても長続きしないね」


「へえ」


「今回、いきなり姿を消したのは、なんでなんだろうね。不思議だよ」


「犯人だからですかね」

目黒さんが言う。


「リスの落し穴事件で、ウルフはたいした怪我も追ってないわけだし、ハム研を襲う動機がそもそも無いから、あたいは不思議だよ」

私も不思議だ。


もしかしたら、全然関係ない理由で、姿を消したのかもしれない。


「とするとさ、鶴見ミツルかオード卵の二人が、犯人……もしくは共犯者ってことになるのかな」


「だいたい、なんでそんなことをやったんだろう」


沼袋部長が言う。


「犯罪に手を染めて報復するまでに至る動機があるとしたらなんだろうな」

沼袋部長は、格好良く言い直した。


「あたいが今知ってるのはこれだけだよ。たいして訳に立てなかったかもしれないね」


「そんなことない。山嵐君。助かるよ」


「じゃあ、あたいらは、そろそろおいとましようか」


「そうだな」

二人はそう言うと席を立った。