ティーカップを持った左手がぷるぷると震えている。

顔が真っ赤だ。


「ミミさん、あなたは良いですよね」

目黒さんが言った。

橋本ミミは、きょとんとしている。


「キスして2万貰って、みんなにちやほやされて」


「そ、そんな」


「沼袋部長と付き合ってるのに、平田先輩にあんなに濃厚なキスをして、お金まで貰うなんて……」


「ちょっと目黒さん」

真帆が、目黒さんをたしなめる。


「こ……この……淫売!!!」

目黒さんは、そう言って橋本ミミに襲い掛かった。


「キャ!!」


橋本ミミは、目黒さんに押されて、床に倒れた。


目黒さんは、ミミにまたがって、腕を振り上げた。


その瞬間、沼袋部長は素早く目黒さんの腕を掴んだ。

「やめたまえ」

ポーズを決めて沼袋部長は言った。


格好良かったが、もう少し俊敏に動けていたら、もっと良かった。

沼袋部長は、少し運動神経が悪いのだ。


「痛……」

ミミが苦しそうに言う。

「大丈夫か、ミミ君」


「腕が……痛い……」

「転んだ時に腕を付いたんだな。筋を痛めたかもしれないな」


「そんな……。またクラリネットが吹けなくなっちゃいます……」

ミミはしくしくと泣きだした。


「ミミ君……。可哀相に」

沼袋部長は橋本ミミの肩を抱いた。


目黒さんは床に座り込んでいる。


「わ……私、何てことを……ごめんなさい……」

やっと正気に戻ったみたいだ。


「そろそろ解散にしようか」

真帆が、ぼそっと言った。

外に出ると、すっかり夜になっていた。



私たちは、ほとんど無言で駅まで歩いた。




目黒さんは、落ち着くまで少し休んでいくと言って聞かなかったので、平田の家に置いてきてしまった。


聞いた話では、目黒さんは、早朝から平田の家に来ていたらしい。

大胆だ。



最高の誕生日になったと思ったが、思わぬ大どんでん返しだった。