男は、茂みに一瞬消えて、そして、すぐに救急箱を持って戻ってきた。




木製の年代物の救急箱だ。




「俺は、ハジメ」



湿布を貼りながら唐突に男は言った。


ハジメというのが男の名前であると理解するまでに数秒かかった。



「君は?」

ハジメが言う。



「私の名前?」


「そう」


「ミチコ」


「……へえ」



可愛い名前だね、とお世辞を言うのもはばかれる、古風な名前。

自分でもよく分かっている。

ハジメが微妙にリアクションに困っているのがわかった。




「ミチコに、もう一度会いたいと思ってた」

ハジメが言う。



「え……」


「だから、携帯を見つけた時は、運命感じたよ」


「なんで私の携帯ってわかったの?」


「ミチコが逆さまになっていた斜面で見つけたからね」


「そっか……」


「ナンパとか、そんな軽い気持ちじゃなくて……ぃゃ、これってナンパかな?」


「どうだろ……」




どう反応して良いか困ってしまう。


「携帯を見つけたお礼に……って、自分から言うのもなんだけど、少し話さない?今、時間平気かな?」


「少しだったら……」


私は答えた。