ガチャ…と、玄関のドアが開く。 お母さんとお父さんは仕事だから…。 帰ってきたのは彼方だ。 「…ただいまー」 小さく、彼方の声が聞こえた。 ”おかえり”は言わなかった―。 だって。 彼方に向かって”おかえり”なんて、滅多に言わないもん…。 一緒に”ただいま”って言って…一緒に部屋に入って…。 今思えば、全部『一緒』にやってた気がする…。 彼方の足音にハッとする。 ”おかえり”を言わなかったことに気まずくなって、咄嗟に寝たフリをした。