いつものように、『三船』ではなく、

「渚」

と。

耳元でささやく、少しかすれたその声は、どこか懐かしくて心地よく響いた。

「どうしてもっと早く、思い出せなかったんだろう…」

ひとりごとをつぶやいているモモちゃんに、私は疑問を覚えた。

「私のこと、知ってるの!?」

不思議な感じがした。

私が昔の知り合いを忘れるなんて、あるわけがないと思っていたから。

嫌なことだって、ちゃんと覚えている私に、知らない記憶があるなんて、そんなこと、絶対にあるはずがなかった。