碧の記憶、光る闇

「静香…あなた…」

「おじさん何を言い出すの?ちっとも面白くないわ」

「紺野さん…いや長内さん、あなた一体何を企んでるんだ?私には分からないよ。15年も昔の事件の何を蒸し返そうと…」

「だから何の話なの?碧のお父さんでも、いい加減にして下さい」

言葉はきついが、いたって穏やかな表情で静香は話した。どこか達観したような笑みは、むしろ寂しげでもある。

「君を引き取って養女にした紺野洋一郎は私の同級生なんだよ。学生時代からの付き合いだ」

「紺野さん?父さんいったい何言い出すんだ、碧を思う気持ちも分かるけど…」

「もういいわ」

和哉の言葉を静香がさえぎった。肩から下げたバッグを開けると中からゆっくりと拳銃を取り出す。

「静香…」

「おじさん、知ってたんですか。私の素性」

「ああ。色々と調べるうちに紺野さんに辿り付いた。ただあんたは碧に色々とよくしてくれた。それは罪悪感からだったのかね?自分の母親が碧の人生を大きく変えてしまった」

「…冗談じゃないわ。記憶喪失のこの子が何も思い出さないように見張ってただけよ…私のお母さんは、この子の父親に虫けらのように捨てられて、しかも殺されそうになったのよ。川村健吾が置いていったお菓子を野良猫が食べて、泡を吹いて死んだ時、お母さんは決意したわ」

「うそ…ねえ、嘘でしょ静香、私達親友じゃない…ねえ」

「話し掛けないで!。これは本物の拳銃よ。動くと本当に撃つから…もう私の人生なんておまけなのよ、何時死んでも惜しくないの…あの時のお母さんは、もう人間じゃなかったわ。復讐心だけが人間の姿を借りて存在してたの。でもお母さんをそこまで追い込んだのは碧、あなたの父親よ!」