碧の記憶、光る闇

夏美がバッグから取り出した封筒を肇は皆の前に提示した。

中から出てきたのは、昔話の宝の地図を連想されるほど変色した1枚の新聞。

「15年前の4月3日。前日の事件の事が載ってある」

それは一般紙の3面で、トップ記事ではないものの割合大きめの見出しで、センセーショナルに事件を報道していた。


『4家族、8名が行方不明。その内の1軒には大量の血痕』


「これって…初めて見るわ。写真は載ってないのね」

「俺はとりあえず少女が罪を犯してないのを知って、その子を死んだ娘の代わりに育てようと決心した。沖田碧として…そして自分なりに事件を色々と追ったんだ」

肇の後ろで夏美は相変わらず涙を浮かべている。

「そして行方不明者のうち、長内タエという女性が川村健吾と不倫関係にあったことを突き止めた。もちろん長内タエも行方はわかっていない」

「川村沙耶の父親が不倫?…」

自分の父親がと言いかけて碧は言葉を選んだ。もはや川村健吾は自分の父親ではない。自分の父親は沖田肇ただ一人である。

「ああ…碧、辛いだろうが聞いてくれ。そして俺は長内タエが早くに夫を亡くし、その死んだ亭主が狩猟免許を持つと共にかつて2連式の猟銃を所有していた事を調べ上げた」

「じゃあその長内タエが?…」

遠慮がちに雅彦が口を出す。

「ああ、俺は長内タエが事件に関わっている…あるいは不倫関係にあった川村から別れを持ち出され、逆上して川村家全員を虐殺し、死体を処分するか、それとも逃げるところを目撃された他の4人を殺害した…そう考えた」

そこで肇は一呼吸おいて視線を変えた。






「違いますか?長内静香さん」






肇の話が始まった時からある程度覚悟していたのか静香は寂しげな微笑を浮かべながら一歩二歩と後退りした。