碧の記憶、光る闇

(わたしだったんだ…夢に出てきた鬼は10歳の私だったんだ…そして)

降りしきる雨をさえぎるように碧の哀しげな絶叫が空気を切り裂いた。




「私だったんだ!…お父さんとお母さんを殺したのは私だったんだ!…」



こんな初夏にスコールだったのか、それとも超自然的な現象だったのか数秒の間を置いて雨が嘘のように止んだ。相変わらず雲は黒く静電気を帯びた空気が肌にまとわりつくが、雨は止んだ。

急に訪れた静寂を和哉はどうしていいかわからず、だたじっと立ち尽くした。その目に映る碧の後姿はもはや沖田碧ではないような気がした。

(私が殺した?…いったい何を言い出すんだ)

心の中は答えの出ない問いかけで埋め尽くされるが、まるで金縛りにあったように手足が動かない。

「私だったのよ…ごめんねお母さん…ごめんねお父さん」

そう言って碧はその場に崩れ落ちた。水音を聞いて3人はやっと我に返り金縛りの呪縛から解き放たれる。

和哉は慌てて碧にかけより両手で抱き起こした。

「しっかりしろ!碧!…碧!」

和哉に頬を叩かれ碧はうっすらと目を開けた。その瞳から見る見るうちに大粒の涙が溢れ出す。

「お兄ちゃん…私だったの…。私が殺したの。きっと他の行方不明者も私が」
「なに馬鹿な事いってるんだ、そんな事あるはずないだろ」

しかし碧には和哉の声は届かなかった。碧は、はっきりと見てしまったのだ。水上に映る15年前の自分…10歳の川村沙耶。

手には猟銃を持ち、そして血に濡れた瞳は碧が15年間、悪夢でうなされつづけた恐怖そのものであった。

「私だったんだ…私だったんだ…」