「その子の名前って…」

「ああ、その通り。沖田碧…享年4歳だった」

「そんな…」

家族全員がその事を隠し通してきたのが哀しかった訳ではない。むしろそこまで自分に気を使ってくれて申し訳ないぐらいだ。

それよりも、そんな自分の為にアルバムから写真を剥がされ、父と母の口から追憶の言葉すらかけて貰えなくなってしまった、もう一人の沖田碧が哀れであった。和哉より2歳年下という事は自分と同じ年齢ではないか。

「碧も多分、もう知ってしまったのかもしれないが、碧が発見された十津川村で4家族、計8人の行方不明事件がおきていた。その中には倒れていた少女と同じくらいの年齢の少女もいた。間違いない。碧はその中の一人、川村沙耶だ」

「川村…沙耶…?」

出生のルーツそれに自分の本名までいきなり判明した碧は頭がパニックをおこし、大きく首をふった。

「知らないわ…そんな人知らないわよ。私は沖田碧よ。ねえそうでしょ?私はお母さんに生んでもらったのよ。25年まえからずっと一緒だったじゃない、私は交通事故なんかで死んでない!私は生きてる!」

「落ち着け碧!」

それまで黙っていた和哉が暴れる碧を両手で抱きしめた。

駄々をこねる子供のように拳を振り回していた碧もだんだんと大人しくなり、小さな嗚咽をはじめた。

「碧…ごめんなさい。私、たしかに最初はあなたが碧の生まれ変わりだと思ったの。私の碧が帰ってきたって…。でも今は違う、あなたはあなたよ。私のかけがえのない大事な娘よ!」

「碧、すまない。辛いだろうが、最期まで聞いてくれ。俺は、死んだ碧が生きていればこんな顔になっただろうなという想いを込めて手術した。事件のことは知ってたから、警察には嘘をついた。それより一ヶ月も後の5月に碧を発見、場所も十津川から熊野川に変え、自動車事故による怪我と見えるようカルテを作った…警察が分からなかったはずだ」