碧の記憶、光る闇

「よく考えたら私って記憶を無くしてからの人生の方が長いんだもんね。１５年前かあ・・・あっというまだったな。１５年前のあの女の子は何してたんだろ」

そのとき遠慮がちに婦人がコーヒーを載せたトレイをもって傍らにきた。

「ごめんなさいね、立ち聞きするつもりじゃなかったんだけど聞こえちゃったの…１５年前の女の子って…それって何なんですか？もしよかったら教えていただけないでしょうか」

碧は黙って静香と目を見合わせたが婦人の真剣な表情に少しずつ自分の生い立ちを話した。一瞬静香が碧を静止しようとしたが直ぐに黙り込む。


今まで詳しい話しをしたのは家族を除いてごく数人にもかかわらず、こんな初対面の名前も知らないような婦人に話してしまうのは何故だろうと、しゃべりながら自問するがそれには答えられずに口の方が勝手に動いた。

「そうだったんですか…すいません興味本位であなたの過去を聞いたりして」

「いえ…おばさん、何か１５年前のこと知ってるの？興味本位じゃなくて…なんだかおばさん知ってるみたい」

「…１５年前って聞いてね少し思い出すことがあったの。でも多分あなたの話しとは関係ないわ。記憶を戻すお手伝いにはならないかも」

「いいんです。おばさんの知ってる１５年前の出来事って何ですか？教えてください」