碧が他界した時和哉は未だ小学校1年だったこともあり、妹についての記憶はそれほど多くは無い。

ただ学校から帰ると家の中が騒然としてその隅で夏美が泣き崩れていたのだけははっきりと覚えている。

その後仕事人間だった肇は生活を悔い改め新宮市で個人病院を開業した。

しかし家の中にぽっかりとあいた穴は誰もふさぐ事が出来ず火の消えた居間には笑い声が聞こえてもどこか寒々しく居心地が悪かった。

「ちょっと、お見舞いなの。身寄りの無い子でね、お父さんに頼まれちゃって仕方ないわ」

仕方ないといいながら嬉しそうな顔で和哉の頭を撫でた夏美が外に出て行く。

その後ろ姿を見て和哉は何かしら自分も楽しい気分になってきたような気がして自然と笑顔がこぼれた。