肇の言葉に黙って頷いた碧は掴んでいた肇の袖を離し後ろにたった。

何回かの決められた回数分玉が出れば終わるはずなのだが、終わりかけては再度数字が揃いなかなか終了しない。

いつのまにか肇の足元には銀色の玉を満載したドル箱が数個積まれた。

いつも大抵は一度も数字がそろわずただ玉をはじくだけだった肇は初めての経験に少し興奮し碧の存在を忘れた。

(これって換金したらいくらになるんだろう?)

子供のようにわくわくしながら身を乗り出して玉の軌道を追う。

そのとき表のとおりで激しい急ブレーキ音とともに若い女性の叫び声が聞こえ騒然とした気配が店内にも流れた。

隣で黙って打っていた初老の男も何事かと立ち上がって外に歩いていく。

(ん・・・何だ?事故か?)

「おい碧、見に行っちゃ駄目だぞ。お父さんもうすぐ・・・」

言いながら振り返った視線の先には碧の姿は無く、肇は言葉につまった。

「碧?・・・おーい、碧?」

怪訝な表情でそれでも右手はハンドルから離さず、腰を浮かせた肇を強烈な胸騒ぎが襲った。