夏美の顔を見るのが嫌で家に帰らず病院に寝泊りしたりしてしまう。

そうすると尚更家に帰りづらくなる。その悪循環の繰り返しだ。

無意識に銀色の玉が弾かれる様子を見ていた肇はいつのまにか自分の前のパネルが毒々しい色で点滅しているのに気が付いた。

数ヶ月ぶりに休みが取れたと入ってもする事もなく、結局パチンコぐらいしか行くところがない。

慌てて台のレバーを引き玉を受け皿に落とす。一瞬で考え事をしていた肇の意識を現実に連れ戻すほどの大きな音を立てて玉が下に流れ落ちた。

(今日はついてるな・・・)

たまにしか行かないので殆ど勝った記憶が無く、だからといって同年代のサラリーマンの数倍以上の収入を得ている肇はあまり勝ち負けに執着が無い。ただこうして所在無く玉をはじくのが好きであった。

だから数字がそろって嬉しいが別に興奮したりもしない。かえって台から鳴り響く音楽のほうがうっとうしかった。

タバコを吸おうと思って左手をズボンのポケットに入れた肇はシャツの袖をひっぱる小さな影を見て目を丸くした。

「どうしたんだ碧?一人でこんなところまできたら危ないじゃないか。お母さんはどうしたんだ?」

赤いTシャツ姿の幼い少女が少し俯き加減に立ち、見るとそのつぶらな瞳に少し涙を浮かべている。しかしこっちも台から玉が出つづけているのだ。

「少し待ちなさい、この回が終わったらお父さん終わるから。そしたら一緒にアイスクリームでも食べに行こう」