どれぐらいの時間そうしていたのだろう、数十秒か、それとも1時間以上なのか、しゃがみこんで手を合わせていた碧はゆっくりと立ち上がった。

微かに足が痺れているところを見ると、10分以上は同じ体勢で居たのかもしれない。

スカートのすそについた線香の灰を払いながら碧はもう一度、墓標を見つめた。

夏は暑く、冬は寒い。こんな野外でずっと過ごさなければならない魂を考えると涙が出る思いであるが、墓は象徴で魂などもう此処には存在しないのかもしれない。

「お兄ちゃん、お待たせ」

「ああ…もう、いいのか?」

ずっと碧の後ろで待っていた和哉は、さばさばしたような表情の碧に少し戸惑いながら妹のかばんを持った。

「15年ぶりの再会だからね…ちょっと感傷的になっちゃった。健吾さんと、美津子さん…お、お父さんと、お母さん、私が来るの待ってたかなあ」

「ああ…ずっと待ってたさ。大事な一人娘だから、父さんと母さんは内緒で時々お墓参りに来ていたそうだけどね」

川村健吾と美津子の墓前で和哉は、なんとも言えない気持ちでたたずんだ。

「遺骨の捜索はしなくてもいいのか?、父さん達が立てたこの墓の中はからっぽだぞ」

「うん、いいの。そんな事したら、また静香を追い詰めちゃう。あんな事になって…可愛そうな静香。それに命は永遠だから、お父さんとお母さんの魂も、もうきっと生まれ変わって違う人生を歩んでるわ。お墓なんて、残された者の為に作られた、ただの記念碑よ」

「しかしなあ…まあ碧が良いって言うんなら、それでいいんだけどな」

石が多く、ともすればつまずきそうになる碧の手を取って歩きながら和哉は、もう一度健吾達の墓を振り返った。

「だから…だから沖田碧さんは、交通事故でなくなったけど川村沙耶も15年前に死んだのよ。そして碧さんの魂が沙耶の体に入ったの。だから私は沖田碧」

はっきりと、そして力強い口調で碧は和哉を見上げた。