ケイカ -桂花-

マミが息を呑んだのが分かった。

宮崎は、体ごと私の方を向いていた。

マミなんていない、みたいな角度で。

「じゃあ、またね。たろうちゃん」

早口で言って、逃げるように去っていった。


耳に残る震えた声。

好きなんだろうな、そう思うとかわいそうな気がした。

かなり鼻につくが、健気とも言えるし。

だけど、私の心の奥の方で「勝った」に似た優越感が、ムクムクと音をたてて育ち始めている。

それはいつの間にか、無意識のうちに快感に変わっていく。


「もうちょっと行くと公園あるけど、行く?」

2人の女の心を激しく揺らした張本人が、何事も無かったみたいに言った。

「うん。行く」

混じり気の無い笑顔が、マミの事は何とも思ってない、と言っている。

その顔は、私の快感を倍増させた。