ケイカ -桂花-

だけど、聞こえた声は男の声じゃなくて、ケイのものだった。

「ハナ!」

ケイは、大男をぐいっと押して僅かに出来た隙間をすり抜けて、私と大男の間に立った。

「大将、この子私の友達だから。ト、モ、ダ、チ。分かる?」

ケイはもう一度言い聞かせるように、大男に「ト、モ、ダ、チ」と優しく言った。

大男は小さな声で、「ト、モ、ダ、チ」と繰り返し、ゆっくりと去っていった。

「ケイ!!」

私はケイに抱きついた。

膝ががくがく震えて、そうしないと立っていられない。

「ハナ、怖かったねー。でも大丈夫だよ。あの人は怖い人じゃないから」

ケイは左手で私の肩を抱き、右手で頭をなぜた。

「ケイ!ケイ!」

腕に一層力を込めた。

ケイからはどこかでかいだような甘い匂いがした。