ケイカ -桂花-

「あ・・・、これ」

愛人は私の気持ちを知ってか知らずか、カバンから取り出したタバコを私に見せた。

タバコか・・・。

愛人は、オヤジと同じフィルターの無い短めのタバコを口にくわえて、ピンクの百円ライターで火をつけた。

オレンジの火が愛人の顔を照らす。

ドキッとした。

かすかに揺れる光の中で、見間違いかと思うくらい美しい顔に見えた。

美術の教科書に載ってる彫刻みたいに、ホリが深く妙に整っていて、触っても冷たい気がした。

タバコから煙が出るのと同時にライターの火は消され、元の顔へ戻った。

何だったの?今の顔。

外灯の光の下で、愛人の顔はやっぱり地味で美人とは程遠い。