ケイカ -桂花-

「かわいいー、やっぱ子供」

願った笑顔は消えず、愛人は声を上げて笑った。

一瞬間をおいて、カァーっと顔が熱くなった。

子供。

そうじゃん、これじゃあ私、パパとママが大好きで愛人に嫉妬してすねてる子供みたいじゃん。

そんな風に思われるなんて絶対ダメだ。

カッコ悪すぎる。

全然思ってないし。

「・・・」

何か言い返したいのに言葉が見つからない。

あー、イライラする。

愛人が、ひざの上に載せたサンダルと同じくらい薄汚れたカバンに手を掛けた。

「行くのかよ?」

とっさに出た言葉は、恋人に「帰らないで」って言っているみたいに響いた。

違う、違う。

このまま誤解されたままだったら嫌なだけだけど、「さっきの」なんて、いちいち説明するのもおかしい。