ケイカ -桂花-

目に見えない匂いは、歩き出すとすぐに見失なった。

あちこちに顔を向け、必死に空気を吸い込むと、その中に少しだけ甘い匂いが混じる。

こっちだ。

進んだり戻ったり、戻ったり進んだり、の繰り返し。

数歩進んでは見失い、また鼻で探す。

空気の吸いすぎで頭がくらくらしてくるが、そんな事言ってられない。

目を閉じて、鼻の神経に意識を集中させる。

こっち。

警察犬になった気分だ。

人通りの多い道に出ると、とたんに色んな匂いが邪魔をし始める。

車の排気ガスに、飲食店の匂い、ゴミ、人・・・。

普段気にしてないが、町には匂いが溢れている。

生活臭、人が生きているっていう生々しいほどの匂い。

それらの中からケイの匂いを探し出すのは困難を極めた。