ケイカ -桂花-

ベンチから動けなかった。

立ち上がる気力さえ残っていない。

終わったんだ、と思った。

いつから何が始まって、何が終わったのかはっきりとは言えない。

だけど、確実に幕が下りた、その感覚ははっきりと感じた。

宮崎がそうしていたみたいに、真っ直ぐ暗闇を見つめていた。

時折遠くにトラックの低いエンジン音が聞こえるが、他に音は無い。

このまま闇に溶けてしまいたい-----。



不意に何かに突き動かされる様に体が浮き、動かないはずの体が、気付いたら立ち上がっていた。

頭で理解するより先に体が反応した。

風に乗って、甘い香りが鼻の奥に届いたのだ。


ケイ!


ケイだ。

ケイの匂い。

甘い甘いケイの匂い。

ふらふらとその匂いの元を、ケイを求めて歩き出していた。